認知行動療法について
○ はじめに
 私が札幌で認知行動療法(Cognitive Behavior Therapy: CBT)に取組むきっかけとなったのは、CBTの創始者の一人として知られる米国のジョセフ・ウォルピのところで研鑽を積まれた山上敏子先生(平成3年当時、国立肥前療養所臨床研究部長)に、強迫性障害の治療について指導を受けたことです。
 CBTは、中国の諸子百家の思想にたとえると、ドライな「韓非子」的な印象を与え、これまで我が国をはじめ、ここ札幌でもあまり人気がなかったのですが、昨今は、不安障害、強迫性障害、うつ病など種々の精神疾患に対し有効性のエビデンスを示せる精神療法として普及しつつあります。
 
○ CBTの定義
 「学習理論」に基づき、適応的な習慣行動を強化・維持し、不適応的な行動を減弱・消去させる精神療法の総称です。ここでいう「学習」は、訓練や経験に基づいて習慣行動が変容するプロセスのことです。
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○ 学習理論に基づく行動の類別
  ① 食べ物を見ると、唾液が分泌される。
   先行刺激   反応=行動
  ② 青信号のとき、車道を横断すると、反対側に行ける。 
   先行刺激   反応=行動     随伴刺激
  ①は、意志によらない不随意的な行動(反射)です。この種の行動を「レスポンデント行動」といいますが、唾液の分泌に限らず、不安・恐怖といった感情もこれに属します。
 一方、②は、意志に基づく随意的な行動です。必ずしも先行刺激を必要としません。この種の行動を「オペラント行動」といいます(オペラントとは operate on the environmentからの造語である)。 
 
○ レスポンデント学習
 諺・慣用句で申せば、
 羮(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く
  ということです。羮(野菜や魚肉などを入れて作った熱い吸い物)を不用意に飲んでその熱さに懲り、冷たい膾まで吹きさまして食べるようになること。すなわち、一度失敗したのに懲りて、度の過ぎた用心をすることのたとえです。
 食器は、本来、無害な中性刺激ですが、羮といっしょに呈示された結果、熱いものとして恐怖感を引き起こし、その結果、膾の入った冷たい食器に対しても恐怖感をいだき、吹きさますようになったわけです。これをレスポンデント学習(条件付け)といいます。以下に類例を挙げておきます。
  坊主憎けりゃ、袈裟まで憎い
  A burnt child dreads the fire(火傷した子供は火を怖がる).
 この理論は、不潔恐怖、外出恐怖などさまざまな恐怖症のメカニズムを説明するのに好都合です。認知行動療法としては、条件付けられた恐怖に慣れるというアプローチをします。これを「脱感作」といいます。薬剤やリラックス技法で恐怖を和らげた状態で、徐々に恐怖対象に曝露(エクスポージャー)していくのが一般的です。曝露する方法は、イメージと現実場面に大別されます。このとき、恐怖感が高まったときの対処法を十分教示しておきます。
 
○ オペラント学習
 これは、ずばり、
  信賞必罰(韓非子)
  可愛いくば二つ叱って三つ誉め 五つ教えてよき人となせ(二宮尊徳)
  ということです。望ましい行動が生起したとき、報酬を与えるか嫌なことを取り去ると、当該行動の生起頻度が増える。
 これを「強化」といいます。望ましくない行動が生起したとき、嫌なことをするか報酬を取り去ると、当該行動の生起頻度が減る。これを「罰」といいます。動物の調教にせよ人格の形成にせよ、強化と罰の累積の結果とみなすことができます。
  なお、オペラント学習は、
  柳の下にいつも泥鰌(ドジョウ)はおらぬ
  という性質ももちます。ドジョウという強化因子によって、同じ柳の下でドジョウを狙うという行動が強化されるわけです。何度か試みて捕れなければ(強化事態がなくなれば)、通常、その行動は生じなくなるのですが、たまに捕れると、その行動はかえって強化されます。まさに、ギャンブルがその好例です。
 
○ 認知的学習
 ヒトの場合は、認知的な学習というものがあります。
 やってみせ言って聞かせてさせてみて 誉めてやらねば人は動かじ (山本五十六)
 この歌は、前半が認知的学習、後半がオペラント学習になっています。感情は、認知パターンによって左右されます。
たとえば、うつになりやすい認知パターンとして次のようなものがあります。
・全か無か思考  物事を、「白か黒か」2つに1つの見方をしてしまう
・マイナス思考  何でもないことやよい出来事を悪い出来事にすり替えてしまう
・結論の飛躍   特に確かな理由もないのに悲観的な結論を出してしまう
・すべき思考   何かやろうとするときに、常に「~すべき(でない)」と考える
・ラベル貼り   失敗した時に,「自分は駄目だ馬鹿だ」とラベルを貼ってしまう

 治療としては、このような思考パターンを適応的なものに変えていく「認知再構成」といった技法を用います。

 実は、自分の感情を、正確に言葉にするのはむつかしいのです。たとえば、朝起きて気分がすぐれず、
「何もできない」と思ってしまうと、この言葉が悪い方向に一人歩きします。さらに、「今日一日、駄目だ」と連鎖反応すると、「駄目」というのはもともと囲碁用語の比喩にすぎないのに、このラベル貼りで、一層、憂うつな気分になっていく悪循環を生じます。このような患者の何気ない言葉が気分に及ぼす影響も取扱っていきます。
 面白きこともなき世を面白く 住みなすものは心(認知)なりけり (高杉晋作)
 さしあたるそのことばかり思えただ 帰らぬ昔 知らぬ行く末(良寛)
 
○ 解釈と分析の違い
  CBTでは、「解釈」を排し「分析」を行います。まず、ここでいう解釈とは原因を推測・憶測することです。過去志向的で、検証が困難です。
 たとえば、
・うつ病になったのは、きまじめな性格が原因
・パニック発作を起こすのは、幼少児期の分離不安が原因
・不幸なのは、前世の因縁
  日常生活において、解釈することは刺激的で楽しく、頭の体操にもなります。でも、精神療法の技法として有効なアプローチなのでしょうか・・・?
  一方、分析とは、「問題を持続させている刺激-反応の連関」についての仮説を立てることです。現在~未来志向的で、検証可能で、合理的な対策を講じやすくなります。
 たとえば、
・教室で騒ぐ、男の子に注意すると一層騒ぐ
・むしゃくしゃして甘いものを大量摂取してしばらくすると、余計イライラする
・K医師は、冷蔵庫に缶ビールが3本入っていると、一晩に3本飲む
  特に大切なことは、行動を数値化してモニターすることです(モニタリング)。「意欲がでない」という症状を数値化するには、主観的体験である「意欲」を点数化する(10点満点11段階とか)方法と、たとえば「1日の歩数」のように意欲のあるなしを反映する客観的指標を利用することが考えられます。預金通帳というのは、モニタリングの好例で、通常ヒトは預金を増やすように行動します。モニタリングだけで行動が改善する場合があるわけです。
 
このように札幌の当院では日々認知行動療法に役立てられるよう研究と調査をおこなっております。
私も、引き続きこの技法の研鑽に取組んでまいりたく存じます。
  器用さと稽古と好きの そのうちで 好きこそものの 上手なりけれ(千利休)
 
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